今週はオークス(優駿牝馬)、来週は日本ダービー(東京優駿)と3歳三冠路線(3歳クラシック戦)のクライマックスを迎えます。日本ダービーが終われば、2歳新馬戦がはじまり、競馬の世界では一つの節目となる時期でもあります。
そもそもクラシック競争とは?
「クラシック競争」というのは通称にすぎません。クラシックという言葉が古典的とか伝統的とかそういう意味で用いられるように、競馬のレースにおいても古くから行われている様式・格式に基づく競争というような意味合いになります。
競馬の世界におけるクラシック競争の最大の意義は「優秀な繁殖馬の選定」にあります。そのため、クラシック競争ではその選定価値を高めるために通常の競争以上にヒエラルキーのハッキリした仕組みが採用されることが一般的です。また、「繁殖馬の選定」という観点からセン馬(去勢され繁殖能力のない馬)の出走は認められない場合も少なくありません。
日本競馬におけるクラシック競争
JRAウェブサイトで提供されている競馬用語事典では、「クラシック・レース」=「桜花賞、皐月賞、優駿牝馬(オークス)、東京優駿(日本ダービー)、菊花賞の総称」と説明しています。実際、この5競争については、「3歳馬5大特別競走」という特別な呼び名をあてていて、出走するためには別途の事前登録(いわゆるクラシック登録)が必要となります。
ちなみに、3歳牝馬三冠最終戦である秋華賞は、事後に創設された「歴史の浅いレース」であることから、この5大特別競争には含まれていません。
また、古くから繁殖馬(特に種牡馬)選定のために行われててきた伝統と格式の高いレースという意味では、これに天皇賞(春)・天皇賞(秋)・有馬記念の3つを「古馬のクラシック・レース」ととらえることも可能でしょう。実際にも、皐月賞・ダービー・菊花賞・桜花賞・オークス・天皇賞(春)・(秋)・有馬記念の8つのレースを総称して「日本競馬の8大競争」と呼ぶことがあります。
クラシックレース出走までの道のり
クラシックレース(種牡馬選定レース)の価値はそこに至るプロセスの厳しさに比例するといってよいでしょう。たとえば、3歳クラシックレースは、「3歳馬限定」であるため「一生に一回」しか出走のチャンスがないことにレースとしての意義があります。実際にも、そこに至るまでの道のりの険しさ(=クラシックレースに勝てる可能性の低さ)は、実際に行われるレースを見ることでしかプロセスに接することのできないわたしたちの想像を遙かに超えるものがあります。
生産からデビューまで
クラシックレースに出走するためには、何よりも競走馬としてデビューし、最低でも1勝をあげる必要がありますが、そこに至るまでの過程それ自体も非常に険しいものです。
種付け・受胎・出生・血統登録
クラシックレースに出走するためには、何よりも生まれてこなければストーリーもはじまりません。いまではゲームなどを通じて競走馬生産のプロセスを擬似的に体感することができなくはありませんが、当然ゲームの世界よりも実際の生産は遙かに大変です。たとえば、公的な統計(農林水産省生産局地区三部畜産振興課が毎年公表している統計資料)を確認すると、いわゆる種付けであっても実際の受胎率(平均)は80%にとどまります。
また、競走馬の出産には事故がつきものですから、受胎したすべての馬が無事に生まれてこれるわけではありません。上記の統計資料に基づいて数字をおいかければ、受胎した馬のうち無事に出産をむかえるのは90%ほどになってしまいます。また、生まれてきた仔馬の状況によっては、血統登録に至らないケースもないわけではありません。
血統登録の手続は、「出生届けがださたことによって戸籍が作成されること」に該当するもので、競走馬の場合にはDNA鑑定が行われ、個体識別のためにマイクロチップが埋め込まれることになります。これらは偽装や取り違え防止のための措置といえます。
競走馬登録・入厩・デビュー
無事に血統登録を済ませることができたとしても、「競走馬になる」ことも簡単なことではありません。馬主が見つかる前にケガなどで競走能力を失ってしまうケースもあれば、気性などの理由で競走馬になれないこともあるかもしれません。無事に1歳の9月をむかえることができたサラブレットは競走馬登録を受けることが可能になりますが、数字だけを示せば、実際に生まれてきたサラブレットの20%前後はここまでの過程でふるいにかけられてしまっています。
さらに、競走馬登録から入厩までの育成過程でもさまざまな人の苦労や努力があります。入厩はしたけど出走できずにクラシックシーズンが終わってしまう(引退してしまう)という馬の数は決して少なくありません。1頭の競走馬がデビュー戦をむかえるということだけでもかなり大変なことなのです。
デビューからクラシックレース出走まで
日本ダービー(東京優駿)やオークス(優駿牝馬)に出走するためには、次の条件を満たしている必要があります。
- 3歳5大競争特別登録(クラシック登録)を済ませている
- 収得賞金を得ている(未出走・未勝利ではないこと)
- それぞれのクラシックレースでの(優先)出走権を得ている
とはいえ、実際に競馬で1勝することは簡単ではありません。JRAには年4500頭前後の競走馬が登録されますが、そのうち新馬・未勝利戦を勝ち上がることができるのは1/3ほどにすぎません。当然、新馬・未勝利を1勝しただけで日本ダービーをはじめとするクラシックレースに出走することはほぼ不可能ですから、そこからさらに1勝クラス・OPクラスのレース(重賞)などで賞金を加算(優先出走権を獲得)していく必要があります。
かつては、それぞれのクラシックレースの指定トライアルで優先出走権を獲得するローテーションが主流でしたが、近年では有力馬ほど2歳の早い時点でクラシックレース出走に十分な賞金を獲得してゆとりをもったローテーションを組む傾向が強くなっています。そのため、ダービーが終わった翌週には翌年のダービー馬が出走しているという時代がもうじきやってくるかも・・・。
ちなみに、JRAで未勝利(未出走)であったとしても地方競馬での勝利などによって収得賞金を獲得していれる(&優先出走権)を得ていればクラシックレースへの出走は可能です。
2022年3歳世代でダービー馬になれる確率は?
アクセスできる統計情報などによれば、2022年3歳世代(2019年生世代)の生産・登録状況は下記のとおり。日本ダービーに出走できるのはこのうちわずかに18頭までにすぎませんので、JRAの同世代登録馬(執筆時点でデータベース上で確認できた抹消馬を含めた数)のわずか0.4%しか出走できない狭き門ということになります(ダービー馬になれるのはその勝者のみ)。
前年 種付 | 受胎 | 生産 (出生) | 血統 登録 | JRA 登録 | |
頭数 | 9905 | 8042 | 7339 | 7202 | 4802 |
% | 0.01 | 0.012 | 0.013 | 0.014 | 0.02 |
ダービーは「最も運の良い馬が勝つ」といわれたりもしますが、上記の数字をみればまさにそのとおりで、競馬に携わるすべての人にとって、本当に特別な存在であることがよくわかります。1年に1回の盛大なお祭りではありますが、わたしたちが目にしているレースの裏側に「たくさんの人々の多くの物語がある」ということも頭の片隅にいれておくと、ダービー(オークス)をより興味深くみることができるのではないでしょうか。