競馬の予想となるファクターには「タイム」に関係するさまざまなデータ(数値)が存在します。その中でもラップタイムは、それぞれのレースの展開やレベルを把握する上で非常に重要なファクターといえます。その反面、膨大なデータ(数字)に圧倒されやすく、難しくてわからないという人も多いことも事実です。
そこで今回は、何回かの記事にわけて「競馬のレースにおけるラップタイム」について、複数の角度から解説を加えていこうと思います。
目次
ラップタイムとは
ラップタイム(lap time)とは、「タイムの途中計時」のことで、「レース中のある地点から別のある地点までに要した区間タイム」のことを意味します。
競馬レースの場合には、次のようなラップタイムが予想の上で重要なファクターとなる場合が多いです。
- 200m(1ハロン)ごとの区間タイム(ハロンタイム)
- 前半600m(3ハロン)の通過タイム(前半3Fタイム)
- ゴールまでの残り600m(3ハロン)地点からゴールまでの区間タイム(上がり3Fタイム)
- 1000m地点(5ハロン)通過の区間タイム(1000m通過タイム)
区間距離と実走距離の違い
競馬のレースにおいて示されるラップタイム(ハロンタイム)は「馬が一定の「ゾーン」を通過するのにかかった所要時間」を計測したものです。そのため実際のレースにおける馬の進路によっては「区間距離」と「実走距離」に齟齬が生じることに注意しておく必要があります。上のイラストはその1例ですが、直線200mの直線区間であっても「不利なく真っ直ぐ走れた馬」と他馬の影響による不利や自らの逸走などによって「真っ直ぐ走れなかった馬」では実走距離に違いがあります。
また、コーナー区間では、内を廻るか外を廻るかの進路取りによって、直線区間以上に実走距離の差が大きくなることにも注意しておかなければなりません(内・外の有利不利については下記の記事で詳しく解説しています)。
ラップタイムでわかる4つのこと
ラップタイムを分析・比較は、次のファクターを判断する際に役立ちます。
- レースのペース
- コース・クラスごとの特徴・傾向
- 展開による有利・不利の有無
レースのペース
それぞれのレースにおけるラップタイムはそれぞれのレースにおける「ペース」を判定する重要な基準となります。ただ、実際に競馬のさまざまな文脈で用いられる「ハイペース」・「スローペース」という言葉は、定義が曖昧なまま用いられているケースが多いことにも注意しておく必要があります。
ハイペース・スローペースの基準
競馬におけるさまざまなメディアで用いられている「ハイペース」・「スローペース」という言葉は「絶対的な基準(○m通過✕秒という基準」ではなく「相対的な基準(それぞれのレースにおける前後半タイムの割合)」によって定義されている場合がほとんどで、簡単にまとめれば次のように定義することができます。
- ハイペース:レースの前半タイムがレース全体のタイムにおける一定割合よりも少ない場合
- スローペース:レースの前半タイムがレース全体のタイムにおける一定割合よりも多い馬合
- ミディアムペース:上記1.2.以外の場合
ペースの違いをグラフで比較
上の表は、2000mで実施された仮のレースラップですが、いずれもレースタイム(勝ち馬の走破タイム)は「1分58秒2」で同じです。2000mで1分58秒2というタイムは、一般的には「早い走破タイム」といえますが、「走破タイムが早い=ハイペース」というわけでありません。「ペース」は「それぞれレースの中身の比率」の問題であるので走破時計・勝ち時計の絶対値(早さ)とは無関係だからです。実際のラップを下の折れ線グラフのような形で示すと、同じ走破時計・勝ちタイムであっても、道中のペース(ラップタイムの流れ)に違いがあるのがよくわかるかと思います。
基準タイムの重要性 いまの競馬ではレース全体の走破タイム(絶対時計)は、レース時の「馬場コンディション(トラックバイアス)」に左右されるケースが非常に増えています。そのため、走破時計が早くなりやすいコンディションであれば「ミディアム・スローペース判定」のレースでもレコードがでるというケースは珍しくなくなりました。その意味では、走破時計それ自体の評価をするためには「別の相対的なモノサシ」が必要となり、それがいわゆる「基準タイム」と呼ばれるものです。 |
ミディアムペースの罠
一般的なハイペース・スローペースの基準に基づけば、「ミディアムペース」は「ハイペース・スローペースのいずれにも該当しないペース」ということになります。その意味では、実際のミディアムペースには「さまざまなタイプのレースがある」ということに注意しておく必要があります。
上の例は、どちらもミディアムペースに分類されるペースのレースですが、同じミディアムペースでもレースの流れには大きな違いがあります。青線のレース(中だるみ型)は、「実質的にはスローに近いミディアムペース」のレースに分類できるといえ、橙線のレースはまさに「平均ペース」の典型に近いラップを踏んでいるレースです。過去レースのラップタイムを眺める際には「平均」・「ミディアム」という言葉だけに注目がいきがちで「ミディアムペースは特色がない」と思い込みがちなのですが、実際のレースで最も多いのはミディアムペースのレースで、バリエーションが最も豊かなのもミディアムペースのレースであるということを意識しておくだけでも穴馬をみつけられる可能性は高くなります。
コース・クラスごとの特徴・傾向
それぞれのレースにおけるラップタイムは、コースのレイアウトや条件(クラス・出走頭数)にあわせて「人為的に作られた」ものである場合がほとんどです。上のグラフは、新潟(外)芝1600mで行われたクラス別の平均ラップタイムをまとめたものです。新潟競馬場の外回りコースは、日本で最も長い直線コースがあるだけでなく、オール野芝コースで早い時計の出やすい点に大きな特徴がありますが、1600mのレースではその長い直線を活かした最後の600m勝負のレースになっていることがひとめでわかります。
それを別の視点でみれば、「新潟芝1600mは650mの直線で早く走れるようにペース配分をする」のが最適解の乗り方であるともいえるわけです。さらに新潟競馬場の3・4コーナーは他場よりもタイトなのでペースを上げづらいことも、このようなラップタイム傾向となる一因になっています。
また、同じコースでのクラスの違いによるラップタイムの傾向を比較すると、同コースで昇級する際に見極めるべきファクターなどにも気づきを得られるといえます。
展開による有利・不利の有無
日本で開催される競馬レースは、大半がフルゲート前提の「多頭数」での競馬となります。そのため、実際のレースでは大小問わず何かしらの有利不利や向き不向きが発生することが大半です。これらのファクターのうち「展開による有利不利・向き不向き」は比較的検証しやすいものといえますが、一般的には次のように整理しておくことができるでしょう。
- ハイペースは「逃げ・先行馬」には苦しく、中団以降の馬に有利
- スローペースは「逃げ・先行馬」に圧倒的に有利
「短距離の追い込み馬」、「長距離の逃げ馬」といった競馬格言は、上記の一般的な傾向に沿ったものということができます。ハイペースに巻き込まれて潰されてしまった逃げ・先行馬、スローペースで差し届かなかった差し・追い込み馬が次走で人気を落としていたら、馬券的には「買い」のサインといえます。
また、ハイペースだから逃げ・先行が活きる、スローペースだからこその差し馬を狙い撃つのも妙味のある馬券を的中させる上では大事なポイントになってきます。そういう隠れた高配当の使者を見つけるためには、それぞれの馬の得意条件・不得意条件と個々のレースの実ラップを比較する作業が非常に重要です。
まとめ
レースのペースは、競馬に関するさまざまなファクターのうち「人為的な操作」で作られやすいものです。また、さまざまなデータにアクセスしやすくなった今の環境では、それぞれのレースを可視化・点検・分析するためにも非常に重要な要素となります。ラップタイムそれ自体に関する基本は、多くの競馬ファンであれば理解していることだと思いますが、理解していると思っているからこそ意識が薄くなっている部分に高配当馬券ゲットのヒントも隠されているといえます。