【競馬の見える化】内・外の有利不利の検証①

今回の記事では、コース取り(内と外)による距離ロス・タイムロスについて具体的に考察してみたいと思います。

レース後の関係者コメントでは「外々を廻らされたことが敗因」というような声を聞くことは珍しくありません。また、ほとんどの人も「外の方が走る馬は内を走る馬よりも実走距離が長くなる」ことは頭では理解できていると思います。とはいえ、それが実際に「どれくらいのタイム・距離」の差(不利)となっているか・・・ということまで具体的にイメージできている人は多くないのではないでしょうか。

目次

押さえておきたい基本

まずは、多くの人が理解しているであろう基本的なことから確認しておきましょう。ポイントは次の2点です。

  • 内・外の「距離差」が生じるのは「コーナー区間」のみ(直線区間ではコース取りによる距離差は生じない)
  • コーナー区間では「円弧が長いほど」距離ロスも大きい

「直線」では内外のコース取りによる距離差は発生しない

並行する2直線には距離の差は発生しないので、直線区間であれば、「内か外かのコース取り」だけを理由とした距離ロスは発生しません。上の図でいえば「①(内)と②(外)は等距離」になります。その例外は「馬が真っ直ぐ走らない場合」で、③のように馬が外へと斜行(逸走)した場合には、「真っ直ぐ走れない分」だけ距離ロスが発生することになります。最近では、リフレイムの斜行(逸走)癖が有名なケースですが、最後の直線でスムーズに進路を確保できないような場合にも同様の距離ロスが発生しています。

コーナー区間での距離ロスは「円弧の長さ」に比例

コーナー区間におけるコースの内外(進路取り)による距離ロスは、進路となるコースの円弧の長さに比例して大きくなります。上の2つのコースの例であれば、左のコースの方が右のコースよりもコーナー区間の円弧長が短いので、内外によるコースロスの差も小さいということになります。

コーナーの曲がり角それ自体は左のコースの方が急なのですが、この手の形態のコーナーを採用できているところは「競馬場が大きいコース(コース幅員の広いコース」なので「急カーブ」であることの影響を吸収してしまっていることの方が多いです。競馬場の各コーナーの長さ、曲がり角は、競馬場ごと・コーナーごとに違いがありますが、次のように整理しておくと覚えやすいでしょう。

  1. 直線距離が短いほどコーナー区間は長い(函館・札幌・小倉・福島・新潟内回り)
  2. ターン数が多いほどコーナー区間は長い(長距離戦)
  3. コーナーの形状が「正円」に近づくほどコーナー区間は長い(札幌競馬場)

実際の競馬を例に内外の差を検証

上で説明したことを踏まえて、実際の競馬における内・外の距離ロスの差について具体的に解説をしていきたいと思います。

千直競馬の内・外

直線での内外の差といえば、ほとんどの人が千直競馬を思い浮かべると思います。いまの千直競馬では、走路となる芝のコンディションの良い(使用頻度の少ない)外ラチ沿いに進路を取らないと勝負にならないくらいの強いトラックバイアスが発生しているため、内枠を引いた馬の多くは下図の赤矢印のような進路をとらざるを得ないわけです。

この場合に内から外へと進路を変えることによって生じる距離ロスは、中学の数学で学習する「三平方の定理」で導くことができます。千直競馬で内ラチ一杯から外ラチ一杯まで進路を変える場合の走破距離(X)は、

Xの2乗 = Y(スタート地点から外の進路までの縦幅移動分)の2乗 + Z(進路変更までに要した横距離)の2乗

となります。たとえば、Aコース使用時の1枠1番(内ラチ一杯と過程)から外ラチ一杯まで進路を変えるのに200mの距離を要したというケースであれば、「Xの2乗=25✕25+200+200」→「Xの2乗=40625」=201.556mということになりますので、コースロスとなるのは「1.556m」です。

なお、千直競馬での内→外の進路変更による距離ロスは、「急な進路変更ほどロスが大きく」なるので、Zの距離が100mであった場合のXの値は「103.078」なので、200mで進路変更した場合の約3倍(3m)のロスとなります。ただ、実際の千直競馬でスタートから100m以内に進路スイッチをすることは危険を伴う行為でもあり、200mほどの距離をかけて内に寄せていくのが一般的といえます。

千直競馬での1mの距離ロスを「タイムロス」に換算

千直競馬で「内から外に進路をスイッチ」するときに生じる(最大)1mほどの距離ロスは、どの程度のタイムロスになるのかを下記の例で実際に計算してみましょう。

  • 内目の枠から外目までの進路変更
  • 内→外への移動距離は約20m
  • 進路スイッチに要したレース距離は200m
  • 進路スイッチのために発生した距離ロスは1m(正確には0.9975m)
  • この馬の200m通過タイムは11.8秒

上記のケースの場合には、対象馬が200m通過地点まで(11.8秒の間)に実際に走った距離は201mということになります。この場合のタイムロスは、

  • 馬の速度(平均)= 200m地点通過タイム11.8秒(a) = 秒速17.034m
  • 秒速17.034mの速度で200mを走るために要する時間(秒) = 200m÷馬の速度(17.034)=11.74秒(b)
  • 理論値としてのタイムロス =(a)ー(b)=11.8-11.74=0.06秒

ということになります。200mまでに進路スイッチができるのであれば最も重要なゴール前までの残り400m区間・残り200m区間で「不利なバイアスを回避できる」ことも考慮にいれれば「0.06秒のタイムロスが生じても外の進路を選択する」ことは理にかなった選択であるといえるでしょう。

ただ、一般論としては「レース距離が短いほど各馬のタイム差も発生しづらい」ということになりますので、開幕週の千直競馬のように内外の差によるバイアスが小さい(ほとんどない)レースにおいては、「内枠の馬は内の進路を維持する」ことにも一定の合理性があるといえます。特に千直競馬はほぼ全馬が外ラチ沿いに馬を寄せるため、外に持ち出したために「進路がなくなる」リスクも抱えることになるからです。

次回予告 コーナー区間における内外の有利・不利

直線競馬の場合には、「直線と直線」の距離差が問題となるため、コース取りにおける距離ロス・タイムロスは、他の要因(トラックバイアス・そのほかの不利事象(前が壁など)に吸収されてしまうケースの方が多いといえます。しかし、「コーナー区間」のある競馬、特に長距離戦のような多ターン競馬においては、無視できないほどのロスになることも珍しくありません。次回は、これらのケースについて具体例に基づいて、コース取りによる距離ロス・タイムロスを検証してみたいと思います。