ヴィクトリアマイル2022 回顧

白毛馬ソダシが桜花賞以来のGⅠ制覇。白毛という希有な毛色のアイドルホースの復活勝利は大きな話題に。デアリングタクトの復帰、レイパパレの落馬寸前トラブルといった点にも着目しながらレースを振り返りたい。

なお、ソダシはすでに放牧にだされていて、次走は札幌記念、秋はマイルCSを目標とのことで安田記念出走ということはない模様。ただ、ソングラインをはじめ数頭の馬については、今後の状態次第では安田記念へ駒を進める可能性が残されている。

ヴィクトリアマイル2022 レース結果

馬名 性齢 タイム 上3F -3F差
ソダシ 牝4 1.32.2 93 33.4 0.8
ファインルージュ 牝4 1.32.5 90 33.4 1.1
レシステンシア 牝5 1.32.5 90 34.1 0.4
ローザノワール 牝6 1.32.5 90 34.5 0.0
ソングライン 牝4 1.32.5 90 33.2 1.3
デアリングタクト 牝5 1.32.7 88 33.6 1.1
アブレイズ 牝5 1.32.8 87 32.9 1.9
アカイイト 牝5 1.32.8 87 33.1 1.7
シャドウディーヴァ 牝6 1.32.8 87 32.9 1.9
10 ミスニューヨーク 牝5 1.32.9 86 33.4 1.5
11 ディヴィーナ 牝4 1.32.9 86 33.6 1.3
12 レイパパレ 牝5 1.32.9 86 34.3 0.6
13 テルツェット 牝5 1.33.0 85 32.9 2.1
14 アンドヴァラナウト 牝4 1.33.1 84 33.8 1.3
15 デゼル 牝5 1.33.2 83 33.6 1.6
16 クリノプレミアム 牝5 1.33.2 83 34.3 0.9
17 マジックキャッスル 牝5 1.33.5 80 33.9 1.6
18 メイショウミモザ 牝5 1.33.7 78 33.9 1.8

レース展開を振り返る

今年のヴィクトリアマイルは「ペース/展開」に大きく左右されたレースだったといえる。そこで、レースを①スタートから3コーナー、②3・4コーナー、③直線の3つにわけて振り返ることに。

スタートから3コーナーまで

スタートからの400mラップは、12.5-10.8。ヴィクトリアマイルが良馬場で行われた15回のなかでは3番目に遅いタイム

これはレイパパレが大きく躓き落馬寸前になったことの影響がかなり大きいと考えられるが詳しくは後述。話題をレースの展開に戻せば、ソダシ・レシステンシアは好スタート。ただ、どちらも「逃げる」ことは考えていない模様(レシステンシア陣営は前に馬を置きたいとコメントしていた)ででたなりのペース。そこを何が何でもハナに立ちたいローザノワールが押して先頭に立ち当レースの展望記事で予想したものとほぼ同じような形ですんなり確定。

ローザノワールの1000m通過は58.0で、ヴィクトリアマイル過去10年では6位タイ、昨年よりは0.4秒遅く、一昨年よりは1.3秒遅いペース。東京競馬場1600mでのG1戦ということを加味すれば明らかにスロー

ちなみに、ローザノワールが残り1000m標識を通過してから最後のテルツェットが通過するまでは2秒ほどのタイム差があるので、後方の馬は最初の3Fをほぼ12秒台のラップで進んだことになるが、これはいくらなんでも遅い(牝馬限定とはいえG1戦のペースではない)。

3・4コーナー

400mから1000mまでのラップは、11.4-11.6-11.7-11.1。4コーナーを抜ける際の「11.1」がレースの勝敗に大きな影響を与えたカギとなるラップ。

3・4コーナーの隊列をイメージ化したのが上の画像で、コーナーでうまく脚をためたローザノワールが4コーナーを早いラップで抜けてセーフティリードを上手に作れたことを示している。

すでに述べているように3コーナーまでは「ひたすらスロー」であったことを考えると、ローザノワール以外の馬は前との差を詰めていかなければいけない展開。にもかかわらず、どの馬も鈴を付けにいかなかったのは、「ローザノワールが人気薄であること(どうせ残れないと決めつけていた)」や、東京コースは直線が長いので「ソダシ・レシステンシアより早く動きたくない」という後方有力馬の思惑などがかけ合わさった結果ではないかと思われる。いずれにせよ、直線を向いたときには「ほぼ前が残る」という隊列で、筆者自身は「ローザノワールが逃げ切るのではないか・・・」と一瞬おもったほど。

直線の攻防

当日の東京競馬場の馬場は、週中の雨の影響はどこに・・・というまでにしっかり回復した良馬場。土曜の段階から雨の影響はほとんどないという水準の時計がでていて、例年のような「超」はつかないまでも十分な高速馬場。上がり3Fが最も遅かったローザノワールでも34.5で、最後の200mはバテているようにみえても12.1。これでは後ろにいた馬が届くはずがない。

ソダシは、コメントする点がないくらいスムーズな競馬で、ひたすら自分の競馬に徹した結果の勝利。不利のないポジションで競馬ができる、不利のないように乗るということも大事な能力で、「条件が整いさえすれば桜花賞までの競馬はできる」ということを改めて証明したという勝利。

2着以下で本当にもったいなかったのは、直線の坂下あたりで大きく躓いたファインルージュ。直線の攻防で一番大事な地点での不利でもあり、レース後にルメール騎手が「2着にきたのが信じられない」とコメントを残しているほど。ルメール騎手自身は同日の9Rで馬場を確かめて脚を計っていたところがあったので、あの躓きがなければもっときわどい競馬になっていたのはほぼ間違いなさそう。

レースレベルの評価

時計面だけを切り取ってレベルを判断すれば、今年のヴィクトリアマイルは「低レベル」という結論になる。今回の勝ちタイム(1分32秒2)を標準的なレベルでの勝ちタイムを100としたときの補正タイムに換算すれば「93」


上のグラフは、2017年~今年のヴィクトリアマイルでの1000m通過タイムとレースタイムを比較したもの。今年の1000m58秒/レースタイム1分32秒2は、2019年(ノームコア)・2020年(アーモンドアイ)・2021年(グランアレグリア)と比較すると見劣りすることは否めない。

もっとも、この3年のヴィクトリアマイル(勝ち馬)のレベルが高すぎただけといえばそれまでなのかもしれないが、「対牡馬」ということを考えたときの一つの目安としては覚えてきたいところ。

ちなみに、今年よりも時計レベルの低かった2017年の勝ち馬(アドマイヤリード)、2018年の勝ち馬(ジュールボレール)はヴィクトリアマイル勝利後牡馬相手に重賞勝ちをすることはできず、アドマイヤリードがディセンバーS(OP)を勝ったのみ。

ただ、ソダシに関していえば、レースレベルよりも「自分との戦い」の方が大きなポイントになるかもしれない。次走は冒頭でも触れたように昨年も勝っている札幌記念、秋の大目標も阪神JF・桜花賞とすでにG1勝ちを収めている阪神1600で行われるマイルCS。よほどのことがないかぎりは、「自分の競馬」はしてくれると思われるので後は相手関係ひとつ。今年のマイル路線は、グランアレグリア、インディチャンプなどが抜けたことから混戦模様なだけに、相手関係次第ではさらにG1勝ちを重ねる可能性も十分。

ちなみに、クロフネ産駒は「ダート」の印象が強いが、本当に強い馬は、アエロリット・ホーエルキャプチャのように東京マイルで強い馬が多い。また、産駒成績全体としても「芝で最も買える条件」は東京1600m。

クロフネ産駒 コース別着度数

そのほかの馬の個別回顧

勝ち馬ソダシ以外の馬についても気付いた点を個別にコメント

ファインルージュ

展開回顧のところでも触れたように、直線坂下での躓きがすべて。リズムを崩して追い直しになった分だけトップスピードに乗れた地点が後ろになり届かないという結果。たられば・・・になるがあれがなかったらかなりきわどい競馬になっていたと思われる。ただ、今回の展開を考えるともう少し前のポジションが欲しかったのは事実で勝ち切れたかどうかは五分五分という印象。

ソングライン

枠順確定後の展望記事でもコメントを付しておいたが、やはり「1枠2番」が仇になった印象で、スタート後にポジションを下げた上に、3コーナーで躓くというもったいない競馬に。真ん中あたりの枠だったらまた結果も違っていたかもしれない。少なくとも今回の5着という結果に悲観する必要はない。

アンドヴァラナウト

こちらはソングラインとは逆に「大外8枠」が仇になった馬。レース後に鞍上がコメントを残しているように(外枠からのスタートで)「取りたいポジションがとれなかった」ことがレース結果にもかなり影響している。終始外々の競馬で距離ロスが大きくなっただけでなく、今回の4コーナーのラップを外で廻したら脚もたまらない。ただ、大箱コース(外回りコース)よりは内回りの方が脚を溜めやすいタイプにもみえる。

デゼル

足の使い方の難しい馬で、陣営からは「マイルは忙しい」という趣旨のコメントがよくでてくる馬。今回についても鞍上は「今日みたいなペースでは脚が溜まらなかった」という趣旨のコメントを残している。今回みたいに4コーナーで一気にペースがあがるような競馬は不得手なのか、実は「使える脚がそこまで長くない」というタイプなのか(阪神外回りの長さまでなら使えるけど東京では辛いというわかりづらいタイプかもしれない)。そのあたりは今後しっかり見定めたいところ。

レイパパレ

スタートでの躓きでレースが終わってしまった感が強い。もし、あの不利がなく「ハナを叩いて逃げていた」としたら勝負になった可能性もあったと思うが、そうなれば今回のようなスローペース&縦長の典型的な前残りにはなっていなかったはずなので、いずれにしても苦しかった可能性が高そう。また、4コーナーも少し外に張り気味で、コーナー速度の速いコース自体どうかな・・・という印象も。個人的には、躓いたのだから腹をくくって後ろから競馬してみてもらいたかったところではあるが・・・。
いずれせよ、色んな意味で答え合わせが先送りされた格好になってしまったので、鞍上のいつものコメントではないが「次走改めて」。

デアリングタクト

故障からの長欠明け。しかも幹細胞移植手術をするほどの重症。さすがに陣営も「いきなり勝ち負け」は期待していなかったと思われる。レースも馬の気分なりに追走して「上がりだけ」という印象の競馬。でも、そこはさすがの無敗三冠馬、しっかり上がり33秒台の脚をつかって6着。これでレース勘がしっかり戻って、内面も身がはいってくるようなら、少なくとも牝馬同士のレースであれば十分第一線でやれるだけの目処は立った印象。次走は宝塚記念かなと思われるが、中間の気配とメンバーレベル次第ではあっと言わせる場面があっても驚かない。

アブレイズ

人気のなかった馬で覚えておきたいのはこの馬。中山牝馬Sでも坂下では推定で11秒を切る脚を使っていたので、もしかしたら東京でも・・・ということで、展望記事でも名前をあげたが、たらればの話をすれば「幻の勝ち馬」の1頭。スタート直後に挟まれた上に、向正面でもごちゃついたところに押し込まれて後方に馬を下げる気の毒な流れ。このへんは、鞍上が若い菅原くんということもあって、色々主張しづらいところもあるんだろうなぁ・・・と思わないではないが、直線はスムーズにポジションをとれていたら突き抜けていたかもしれないという脚色(上がり3F最速タイの32.9)。これまで1800m以上のレースばかりつかわれてきたが、レース後に鞍上もコメントしているように「マイルでもやれる」だけの脚力はありそう。