的中率・回収率は、「馬券の収支」について考察する際によく用いられる指標です。たしかに、的中率・回収率をあげることができれば、収支向上に直結することが多いといえます。しかし、的中率重視の馬券方にも、回収率重視の馬券方にも限界があることから「的中率だけ」、「回収率だけ」では収支改善につながらないことも珍しくありません。
目次
はじめに
まずは、的中率・回収率という指標がどのようなものなのかについて簡単に確認しておきましょう。
的中率とは?
的中率:購入した馬券の的中割合
例1)5レース購入で1レース的中=的中率20%(レースあたりの的中率)
例2)10点購入で1点的中=的中率10%(買い目あたりの的中率)
回収率とは?
回収率:購入した馬券から実際に回収できた配当金の割合
例1)10000円の馬券購入で12000円的中(回収)=回収率120%
例2)1日50000円の馬券購入に対して払戻総額40000円=回収率80%
例3)年間100万円の馬券購入で、払戻総額40万円=回収率40%
払戻金の決まり方
馬券の収支を考えるときには、「実際に手にすることのできる払戻額」についても正しく理解しておく必要があります。的中馬券の払戻金は、売上げ総額から「一定の控除金」を除いた部分が払戻の原資となります。
この控除金には、①国の収入(国庫納付金)と②主催者の収入の2つの種類があります。日本の場合には、①は「馬券売上げの10%」と決められていて、②は「券種ごとに定められた割合」が差しかれることになっています。
馬券ごとの控除率
馬券に発生する「控除(いわゆるテラ銭)」の割合は、券種によって下記のように異なります。
控除率が最も高いのは「重勝式(WIN5や地方のトリプル馬単)」の30%です。人気の3連単の控除率は27.5%でそれに次ぐ重さとなっています。他方で最も控除率が低いのは、単勝・複勝の20%で3連単との控除率の差は7.5%もあるので無視できません。
また、JRAなどが不定期で行うキャンペーンによって、これらの控除率が一時的に変動する(配当額が上乗せされる=控除率が引き下げられる)ことがあります。
オッズの決まり方
実際の馬券のオッズは、上記の公式で求めることができます。意外と意識されていないことですが、控除率(=払戻率)は、払戻金の総額を決める要素なので、オッズにも大きく影響しています(控除率の低い馬券ほど相対オッズが高いということです)。
実際のオッズは、その馬券(組合せ)のシェア率と控除率(払戻率)から導かれるということになるわけですが、シェア率の観点でオッズを比較したものが下のグラフです。
このグラフでは単勝オッズを単勝シェア率ごとに比較していますが、控除率20%(払戻率80%)の単勝式の場合は、単勝シェアが40%でオッズ2倍、単勝シェア80%でオッズ1倍の元返しとなります。
右上の枠の中で示したのは、すべての出走馬の単勝が均等に売れた場合のオッズで「馬の能力」や「レースで発生するバイアス」などをすべて捨象して「出走する全馬に等しくチャンスがある」と考えたときの期待値の目安ともいえます。つまり、上記のオッズから下がれば下がるほどその馬のオッズは「旨みが少ない(=儲かりづらい)」というわけです。
たとえば、2023年宝塚記念の勝ち馬イクイノックスの単勝オッズは1.6倍(シェア率約60%)でしたので、18頭立ての基本期待値である14.3倍との単純比較でいえば「旨みが少なくリスクの方が高い馬券」ということができます。
なお、現在では、「JRAプラス10」という制度が適用され、計算上のオッズが元返しとなるケースでも、「配当金が10円上乗せされる(=1.1倍となる)場合」があります。
※JRAウェブサイトに掲載された資料に基づけば、2022年に、このJRAプラス10が適用されたレースは642レース、金額にして34.8億円の規模となっています。
回収率の限界(オッズの壁)
さきほどは、単勝シェアとオッズという視点でしたが、「実際の競馬では配当の壁が高い」ということを、もう少しマクロの視点から確認してみたいと思います。下記の表は、2018年~2022年の5年の間に8頭だけで実施された障害を除く中央競馬全571レースの配当額の内訳です。
券種 | 組合せ数 | 期待 配当値 | 赤字 R率 | 平均 | 中間値 | 最小 | 最大 |
単勝 | 8 | 640 | 78.90% | 544 | 310 | 110 | 7380 |
馬連 | 28 | 2170 | 80.70% | 1646 | 780 | 110 | 19660 |
馬単 | 56 | 4210 | 80.70% | 3189 | 1480 | 190 | 47980 |
3連複 | 56 | 4210 | 80.90% | 3019 | 1300 | 130 | 55300 |
3連単 | 336 | 24167 | 81.80% | 17780 | 6190 | 510 | 381150 |
表をみれば、一目飄然なのですが、すべての券種において、組合せ上の期待値よりも配当が低い結果となっています。表中の赤字レース数は、期待配当値より低い配当となったレースの割合ですが、実際のレースのうちの80%は「儲けの少ないレース」だったというわけです。
もう少し細かくみていけば、各券種の平均配当は、期待値に控除率をかけた値の近似値となっています。しかし、実際の出現率はそれよりも安い配当が多いということが、中間値との差として示されているわけです。表現を変えれば、実際のレース結果(配当)は、控除率の壁を越えられないくらいに堅い(人気サイドの決着が多い)というわけです。
8頭立てのレースを選んだのは、単純に「標本数」の都合なのですが、「少頭数のレースはそもそも儲からない」という指摘もあるだろうということで用意したのが、下の表です。
券種 | 組合せ数 | 期待 配当値 | 赤字 R率 | 平均 | 中間値 | 最小 | 最大 |
単勝 | 16 | 1280 | 75.10% | 1332 | 660 | 130 | 32550 |
馬連 | 120 | 9340 | 77.10% | 9400 | 3680 | 370 | 138600 |
馬単 | 240 | 18000 | 77.10% | 18890 | 6850 | 540 | 351880 |
3連複 | 60 | 42130 | 77.10% | 34997 | 13240 | 350 | 641600 |
3連単 | 3360 | 241670 | 79.10% | 230993 | 65140 | 1990 | 3555600 |
こちらは同じ期間(2018年~2022年)に、16頭立てで実施された重賞(全201レース)の配当内訳となります。たしかに、出走頭数が増えたことで多少の改善は見られていますが、「ほとんどのレースでは配当が期待値以下」という状況に変化はありません。
100万円超のレースの出現率
回収率志向の究極は「超高額配当の獲得」です。しかし、実際に超高額配当となるレースは必ずしも多くありません。
上の表は、2018年~2022年の期間中に3連単配当が100万円(オッズ1万倍)を超えたレースの内訳です。3連単100万超えのレースは全部は402レースで、当該期間中の全レース(17307レース)における出現率は2.3%にすぎません。実際に100万円3連単を狙って見るとわかるのですが、「この組合せでも5000倍くらいまでしかいかない・・・」なんてことの方が多かったりします。
※3連単配当100万円(1万倍)以上となるためには、その組合せのシェア率が「0.725%未満」である必要があります。
的中率の限界
的中率を極めるというアプローチにも回収率と同様に限界があります。それこそ的中率100%というのはそもそも不可能に近い目標ですし、的中率を高めようとすればするほど「配当の壁」にぶち当たり、1回負けるだけでそれまでの利益をすべて失うようなケースも少なくありません。
複勝転がしの難しさ
いわゆる「複勝転がし」は的中率を極めるアプローチの典型例です。下のグラフは、複勝1.1倍を転がした場合の回収率をまとめたものです。
複勝転がしの難しさはまさに「配当が低いこと」で、オッズ1.1倍のケースでは、元手を倍にするためには8連勝が必要で、8コロ目で外してしまえば、結局は赤字になってしまうわけです。
そもそも的中率100%は達成困難
上のデータは、2018年から2022年までの5年間における「複勝オッズ1.1-1.1」の馬の成績を抜き出したものです。全部で337回の出走機会があって3着内は316回、複勝率93.8%、複勝回収率96円という結果です。複勝回収値96円というのは、かなりの好成績ではないかと思っていますが「収支が赤字」であることには変わりがありません。
また、さきほども触れたように、1.1倍というオッズはあまりにもリターンが薄く、たとえば、元手が1万円のケースであれば、5倍にするには17連勝、10倍にするには25連勝が必要で、「忍耐」という点でもリターンに対するコストが高いことは否めません。
まとめ
的中率も回収率も「馬券で儲ける」ための重要な参考指標のひとつではありますが、いずれの指標にも明確な限界があります。実際に「収支を改善させる」ためには、それぞれのアプローチの限界点(配当にも連続的中にも限界があるということ)を把握しながら必要な修正を加えていく必要があり、血統・コース・レースごとの傾向(データ)やトラック/レースバイアスの把握などは、これらの修正作業にとって大きな手助けとなります。